( ! ) セノ女体化、全年齢、Happy
「スメールに来るのがこんなに久しぶりになるなんてな。なぁ旅人!まずはナヒーダに会いに行ってみないか?」
緑と砂と花の国スメールを発ってフォンテーヌとその先での「大冒険」がひと段落した旅人は暫く、本当に暫くぶりにスメールシティの土を踏み締めていた。
相棒の提案に頷くや、スラサタンナ聖処へ向かうべく大木に巻き付く坂を歩いて登ってゆく。根から天辺に向かうにつれて人々の暮らしの匂いが薄れ、代わりに深い木の香りが強くなってゆくこの町は以前と全く変わらない。異国での冒険や困難に向き合うために多くの時間を費やしたと感じていたが、世界は泰然とゆっくり時を進めるようだ。
ほら。ラザンガーデンの美しい東屋にも、見知った者の変わらない姿がある。特徴的な大型の青い花が植えられた鉢──むしろ花壇と言った方がいいのだろうか──の縁に浅く腰をかけ、坂の下からそよ風に撫でられている彼。
「本当だ。あれ、アルハイゼンじゃないか。一人で座ってるのに本を読んでないなんて珍しいな。何か大事そうに抱えてるけど……へへっ、もしかして美味しいものだったりしてな。声かけてみよう!おーい、アルハ……むぐ」
大きく手を振りながらそちらへふよふよと飛んでゆくパイモンの口を思わず後ろから片手で塞いだ。なぜならアルハイゼンの腕の中の「それ」がはっきりと見えたからだ。
パイモンが彼の名を呼びかけたと同時にゆるりと此方を振り向いたアルハイゼンは、長い人差し指を唇に当ててこうジェスチャーした。「静かに。」
旅人と相棒は無言でこくこくと頷いた。
大きく手を振りながらそちらへふよふよと飛んでゆくパイモンの口を思わず後ろから片手で塞いだ。なぜならアルハイゼンの腕の中の「それ」がはっきりと見えたからだ。
パイモンが彼の名を呼びかけたと同時にゆるりと此方を振り向いたアルハイゼンは、長い人差し指を唇に当ててこうジェスチャーした。「静かに。」
旅人と相棒は無言でこくこくと頷いた。
「──それで久しぶりにスメールに来たんだけど、まさかお前が赤ちゃんを抱っこして目の前に現れるなんてな……オイラ、夢ですら見たことなかったぜ……」
頭を抱えるパイモンに、自分も。と相槌を打ってアルハイゼンを見下ろす。
逞しい腕の中に抱き込んだ小さな命が「あぅ」と時折り声を漏らす度にあやすように揺らしていた。
スメールを出発した後の旅について語っている間も特に着席を勧めてこないのが彼らしい。あと数人腰掛け程度に使える余裕があるのだから、座りたければ座れということなのだろうが、パイモンも並んで円形の花壇に座るとそれなりに会話もしづらくなってしまうだろう。「パイモンも膝に抱っこしてあげようか?」などと揶揄い半分に申し出れば、オイラは赤ちゃんじゃないんだぞ!とすかさずぷんすかと騒ぎ出してしまうだろうので大人しく立っていることにした。
「スメール人男性の平均初婚年齢や教令院勤めの職の安定度から考えても、そこまで意外ではないと思うが」
「お前のことを平均的なスメール人とはなかなか言わないと思うぞ。でも、すごく可愛いな」
アルハイゼンの腕の中、淡いグリーンの柔らかな布に包まれて眠る赤子は生後数ヶ月は経っているだろうか。それでも袖から覗く手は驚くほど小さい。可愛いね、とパイモンとくすくす笑い合った。目の前の男からも笑う気配がした。
「ところで、アルハイゼンはこんな場所で誰の赤ちゃんの子守りなんてしてるんだ?」
そう、それは自分も気になっていた。教令院もさすがにベビーシッターの代理を立てねばならぬ事態ではあるまいし。
するとアルハイゼンは常の無表情を少しだけ崩して目を見開き、数度瞬きをする。
「俺の子だが?」
「なーんだ、お前の子だったのか……えっ?」
えっ?
東屋を大木ともども揺らしかねない叫びを手のひらに閉じ込めた二人をじとりと睨んだアルハイゼンは、長い人差し指を唇に当ててこうジェスチャーした。「静かに。」
旅人と相棒は無言でこくこくと頷いた。お互いの口をお互いに全力で塞ぎ合って。
「なぁ旅人、オイラたちまた知らぬ間に夢の中に入ったりなんかしてないよな……?」
そう言いたい気持ちはわかる。けれど現実だ。立ち上がってトントンと赤子の背中を叩きながら、他人からは分かりづらかろうが愛おしげな視線を落とす彼の姿は少なくとも他人の子を抱いているようには到底見えない。
これだけスメールを離れていたとなれば、そうか、そういうことも起こりうるか……。世界は泰然と、時の流れが生む驚きを見せつけてくる。
不意に背後から第四者──いや、第五者から声がかかる
「そこにいるのは旅人とパイモンか?久しいな」
「セノ!オイラたちついさっきシティに着いたばかりなんだ」
坂の上から歩いてきたのはスメール最強武官の大マハマトラまたの名を召喚王その人で、こちらの姿を確認するや顔を綻ばせた。ただトレードマークの厳つい兜も、目のやり場に困る(本人はすごくカッコいいと思っているらしい)装束も身につけておらず、足首まで隠れる白い薄生地のワンピースを纏っている。
──元々年齢よりも若く見えるとは思っていたが、もう「少女」とは呼べないのだろう。
東屋まで降り立ったセノはアルハイゼンと赤子をそれぞれ一瞥して唇に弧を描く。
「聞いてくれよ、誰の赤ちゃんの子守りをしているのかと思ったら、父親はアルハイゼンだって言うんだ!セノも知ってたのか?」
「ん?ああ、この子のことはアルハイゼンよりも先に知っていた」
「ええっ!じゃあ、母親はセノにすごく近しい関係の女の人ってことか?」
パイモン、鈍い。
「ど、どういうことだよ旅人……オイラわかんないぞ」
「なぁ、パイモン」
未だ目を白黒させるパイモンの顔を覗き込み、それはそれは美しく微笑んで彼女は言った。まるで子どもに悪戯を仕掛けようとする母親のように。
「この子が生まれた時、アルハイゼンが初めて大号泣するのを見た話をしてやろうか」
「……セノ。まだ言葉を理解しないといえ我が子の前だ」
ほどほどにしてくれ。とその月色の髪をアルハイゼンが撫でてそこにキスを落とす。
静寂なる庭園に相棒の叫びと、小さな赤子の泣き声が響き渡る。
「そこにいるのは旅人とパイモンか?久しいな」
「セノ!オイラたちついさっきシティに着いたばかりなんだ」
坂の上から歩いてきたのはスメール最強武官の大マハマトラまたの名を召喚王その人で、こちらの姿を確認するや顔を綻ばせた。ただトレードマークの厳つい兜も、目のやり場に困る(本人はすごくカッコいいと思っているらしい)装束も身につけておらず、足首まで隠れる白い薄生地のワンピースを纏っている。
──元々年齢よりも若く見えるとは思っていたが、もう「少女」とは呼べないのだろう。
東屋まで降り立ったセノはアルハイゼンと赤子をそれぞれ一瞥して唇に弧を描く。
「聞いてくれよ、誰の赤ちゃんの子守りをしているのかと思ったら、父親はアルハイゼンだって言うんだ!セノも知ってたのか?」
「ん?ああ、この子のことはアルハイゼンよりも先に知っていた」
「ええっ!じゃあ、母親はセノにすごく近しい関係の女の人ってことか?」
パイモン、鈍い。
「ど、どういうことだよ旅人……オイラわかんないぞ」
「なぁ、パイモン」
未だ目を白黒させるパイモンの顔を覗き込み、それはそれは美しく微笑んで彼女は言った。まるで子どもに悪戯を仕掛けようとする母親のように。
「この子が生まれた時、アルハイゼンが初めて大号泣するのを見た話をしてやろうか」
「……セノ。まだ言葉を理解しないといえ我が子の前だ」
ほどほどにしてくれ。とその月色の髪をアルハイゼンが撫でてそこにキスを落とす。
静寂なる庭園に相棒の叫びと、小さな赤子の泣き声が響き渡る。
世界で一番きみを愛する人に抱っこされながら涙を浮かべる瞳には、慌てふためく金色と銀色の星を映して。
初めまして、きらめくふたつ星
テーマはアルハイゼン初めての大号泣。そのうちこのお話も書けたらいいな。
旅人が1年半ぶりにスメールを訪れた設定で、読んでいるうちにゲームのプレイ画面が目の前に浮かび、パイモンたちの声が聞こえたら…と思いながら書いています。聞こえましたでしょうか。